『温顧創新』--ソフトウェア品質管理--
さて、10月とは、思えない寒さが続きます。皆様、いかがお過ごしでしょうか?
ソフトウェア品質管理の大御所、奈良 隆正さん(元(株)日立製作所 NARAコンサルティング)が講師を務めるセミナー『ソフトウェアの品質管理とは?』も9月29日に最終回を迎えました。この3回のセミナーを振り返りつつ、受講レポートをまとめてみました。
1.アブストラクト
以下の内容で、奈良さんの講義は進みました。
①過去2回のセミナーの振り返り
②2000年代の品質保証活動
③奈良さんにとっての品質保証活動
2.2000年までの品質保証活動 ~振り返りをとおして~
過去2回のセミナーで取り上げた、2000年までのソフトウェア品質管理の歴史を振り返りました。
①1970年代⇒黎明期
・作りっぱなしであったソフトウェア、製造が終了してからチェックを行う品質管理体制に限界が生じる。
・ソフトウェアの品質管理が出口管理オンリーから、中間での検証が加わる時代。
②1980年代⇒ 隆盛期
・プロセス指向のソフトウェア開発の考え方に伴い、品質管理も強化される。
・QC7つ道具は、この時代に生まれる。
・このようなものから、日本のソフトウェア戦略が生まれる。
③1990年代前半⇒定着期
・グローバル化の波が訪れる。
・プロセスオンリーのソフトウェア品質管理の時代。⇒ISO9000,CMMI
・ISO9000⇒ブームとなるが、Howの記述がごっそり抜けている。認証が目的となり形骸化する。
・CMMI⇒ISO9000と異なり、プラクティスが書かれている。
④1990年代中半~後半⇒停滞期
・Windows 95の登場
・オープン化の波
・クライアント/サーバーシステムの誕生
・全体的にソフトウェアの品質は向上せず、「上手くいったら繋がる」といった風潮が生まれる。
・そんな中で、PIMBOKがトレンドとなる。しかし、PMBOKは、プロセスがきちんと動いていることが前提なので、実プロジェクト(特に上手くいっていないプロジェクト)に適用してもうまくいかなかった。
3.そして、2000年代:再生そして発展
背景
・リーマンショックを前後して、東京証券取引所、みずほ銀行などで社会的影響の大きな障害が発生し、ソフトウェア品質管理を見つめ直す機運が高まる。
実際の動き
・現場中心のアプローチ(ボトムアップ)が起きる。
・PPQA(プロセスと成果物の品質保証)が起きる。
参考
・テストが1つの技術となる。
・テスト戦略、テスト分析、テスト計画、テスト設計といったテストプロセスを事前に書く文化が生まれた。
・テスト実行前にテストプロセスをまとめる文化が生まれた。
・ソフトウェア工学がソフトウェア品質管理のベースとなり、V&Vモデル・Wモデルが生まれた。
・奈良さんが特に強調したこと
①ソフトウェア品質管理の技術も百花繚乱である
②テスト工程も開発のオマケではなく、技術・人材ともに1つの形として確立されている
③しかし、危惧しなければならないこともある。例えば、メトリクスの収集にしても担当者は、そのメトリクスがなぜ必要か、収集後どのように活用されるかをまったく意識せずに、言われるがままに作業するケースが多々見られる。
④テストにしても、単にオペレーションを繰り返すだけでは、進歩がない。
⑤PSP(Personal Software Process)は、有用であるが、2年間くらい、黙って、実践し、そこから自分自身そして、チーム、組織を変革する
⑤4GL、セキュリティ、アジャイルなど、新しい技術が喧伝されているが、ベースにあるのは、1970年代からのソフトウェア工学であることを思い返してほしい。
4.質疑応答
質疑応答では、次のような見解をベースとしたQ&Aが活発になされた。
①ソフトウェア工学の基礎は、大学で学べるが、応用は社会に出てからになる
②しかし、大学のカリキュラムにも課題が大いにある。
③企業の現場は繁忙で、業務をソフトウェア工学をベースに振り返る余裕がない。
5.温顧創新
奈良さんは、この言葉でセミナーを締めくくりました。「温顧創新」とは、奈良さんが仲間内で考えた言葉です。「故きをを顧みながら、新しい技術・プロダクトを生み出して欲しい」という奈良さんから我々へのメッセージです。